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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)9063号 判決 1985年9月27日

本訴原告(反訴被告)

アマノ株式会社

ほか一名

本訴被告(反訴原告)

川崎七郎

主文

1  本訴原告(反訴被告)らの本訴被告(反訴原告)に対する別紙交通事故に基づく損害賠償債務は金一、一四八万四、五九七円及びこれに対する昭和六〇年一月二六日から支払済まで年五分の割合による金員を超えては存在しないことを確認する。

2  本訴原告(反訴被告)らのその余の請求を棄却する。

3  反訴被告(本訴原告)らは各自、反訴原告(本訴被告)に対し、金一、一四八万四、五九七円及びこれに対する昭和六〇年一月二六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  反訴原告(本訴被告)のその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その一を本訴原告(反訴被告)らの負担とし、その余を本訴被告(反訴原告)の負担とする。

6  この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  本訴原告(反訴被告・以下原告という)らの本訴被告(反訴原告・以下被告という)に対する別紙交通事故に基づく損害賠償債務は金二二〇万円を超えては存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  原告らは各自、被告に対し、金一億円及びこれに対する昭和六〇年一月二六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの主張

(一)  事故の発生

原告齋藤紀祐(以下原告斎藤という)は別紙交通事故を発生させた。

(二)  被告の損害

1 受傷、治療経過等

被告は、本件事故のため、左手背部打撲傷、右下腿部打撲傷、右頬部挫傷の傷害を負い、昭和五七年四月三〇日から同年一一月三〇日までの間、藤森外科において通院治療を受けた。

右傷害のため、被告の症状は後遺障害等級一二級一二号に該当する神経症状を残して昭和五七年一一月三〇日ごろ症状固定した。

2 治療費 二九万〇、五〇〇円

3 慰藉料 二二〇万円

(三)  過失相殺

1 原告齋藤が加害車を運転して本件交差点を通過しようとした際本件交差点進入時の対面信号が黄色から赤色に変わるところであつたのに対し、被告は対面信号が赤色であつたのに足踏二輪自転車に乗つたまま本件交差点を横断しようとした過失がある。

2 仮に、対面信号が衝突地点から四九・二メートル手前で赤色に変つたとする実況見分調書の指示説明部分によるとしても、加害車がブレーキ作動するまでの速度を時速六〇キロメートルとし、かつ、ブレーキ作動した地点からの速度を時速五〇キロメートルとすると、対面信号が赤色になつたのを確認した地点から交差点に至るまでの所要時間は約三・三秒、仮りに、右速度をそれぞれ時速五〇キロメートル、同四〇キロメートルとすると、その所要時間は約四秒となり、いずれにしても、本件交差点内の信号は、全赤状態であつたものというべきであるから、被告は、対面信号赤色であつたのに、足踏二輪自転車に乗つて信号無視のまま横断した過失があり、相当な過失相殺がなされるべきである。

(四)  心因性の寄与

被告は、本件事故のため、(イ) 左手背部打撲傷、(ロ) 右下腿打撲傷、(ハ) 右頬部打傷の傷害を負つたのであるが、右の傷害のうち、(ロ)及び(ハ)はすでに完治しており、(イ)は突き指の重い程度であつて症状としては軽度であるのに、後遺障害(当初の事前認定では等級一四級一〇号であつた)が残り、また、昭和五八年一二月ころより国立大阪病院、昭和五九年五月一五日大阪市立大学附属病院へ検査等に通院しはじめたのであつて、右の通院等は、被告の心因性に基づくものであつて本件事故と因果関係がない。

(五)  損害の填補

原告らは治療費として二九万〇、五〇〇円を藤森外科へ直接支払つた。

(六)  本訴請求

よつて、被告の損害額より過失相殺、心因性の寄与を考慮し、損害相殺を行なうと原告らの被告に対する本件交通事故による損害賠償債務は二二〇万円を超えることはないのに、被告は多額の損害賠償債権があると主張するので、本訴請求の趣旨記載のとおり判決を求める。

二  原告らの主張に対する認否

(一)の事実は認める。

(二)のうち受傷の内容は認め、その余の事実は否認する。

(三)及び(四)は争う。

(五)は不知。

三  被告の主張

(一)  事故の発生

原告齋藤を加害者、被告を被害者とする、別紙交通事故が発生した。

(二)  責任原因

1 運行供用者責任(自賠法三条)

原告アマノ株式会社は、加害車を業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

2 一般不法行為責任(民法七〇九条)

原告齋藤は、加害車を運転して本件交差点を通過しようとしたのであるから対面信号赤色の表示に従つて停止線手前で停止しなければならないのに、これを怠り、対面赤信号を無視して本件交差点に進入した過失により本件事故を発生させた。

(三)  損害

1 受傷、治療経過等

(1) 受傷

左手背部打撲傷、右下腿打撲傷、右頬部挫傷等

(2) 治療経過

通院

昭和五七年四月三〇日から昭和五九年一二月末日まで

(3) 後遺症

被告は、本件事故による傷害のため、いまだに通院しており、症状固定には至つていない。しかしながら、大阪市立大学附属病院医師によれば、被告の症状(左手が閉じたままで開かない。左右上肢に鈍痛、手指の機能障害)は回復の可能性はないとのことであるから、昭和六〇年一月以降後遺障害分損害として算定する。

2 治療関係費

(1) 治療費 四八万九、一三〇円

(2) 湯治関係費 一六万七、四七〇円

(3) 通院交通費 五九万一、四三〇円

3 逸失利益

(1) 休業損害

被告は、事故当時五五歳で、(株)山一商店に専務取締役として勤務し、一か月平均二二五万円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五七年五月一日から昭和五九年一二月三一日まで休業を余儀なくされ、その間三、八二〇万円の収入を失つた。

内訳

昭和五七年五月分から昭和五八年一二月分まで毎月八〇万円の減額

昭和五九年一月分から同年八月分まで

毎月一六五万円の減額

昭和五九年九月分以降 退職のため収入なし

(2) 将来の逸失利益

被告は前記後遺障害のため、その労働能力を一〇〇%喪失したものであるところ、被告の就労可能年数は昭和六〇年一月一日から九年間と考えられるから、被告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、一億九、六五一万四、〇〇〇円となる。

4 慰藉料 六五〇万円

内訳

通院慰藉料 一五〇万円

後遺障害慰藉料 五〇〇万円

5 弁護士費用 二、四〇〇万円

(四)  反訴請求

よつて、被告は原告らに対し、損害内金として反訴請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。

四  被告の主張に対する認否

(一)は認める。

(二)の1は認め、2は争う。

(三)のうち被告は本件事故のため左手背部打撲傷、右下腿部打撲、右頬部打撲傷の傷害を負い、藤森整形外科において通院治療を受けたことは認め、その余は否認する。被告の症状は、昭和五七年一一月三〇日ごろ症状固定している。

第三証拠

記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

理由

第一事故の発生

別紙交通事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

第二責任原因

一  運行供用者責任(自賠法三条)

原告アマノ株式会社は加害車を業務用に使用し、自己のために運行の用に供していたことは、当事者間に争いがない。従つて、原告アマノ株式会社は、自賠法三条により、本件事故による被告の損害を賠償する責任がある。

二  一般不法行為責任(民法七〇九条)

(一)  成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一、第六号証、乙第一三号証の一、二、証人山根経男の証言、原告齋藤、被告各本人尋問の結果(但し、後記惜信しない部分を除く。)を総合すると次の事実が認められ、右認定に反する原告齋藤、被告各本人尋問の結果は前記証拠に比し惜信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

1 本件事故現場は、北行片側幅員一六メートル(歩道幅員六メートル、車道外側が歩道寄りで〇・八メートル、中央分離帯寄りで〇・二メートル、車道一二メートル四車線)の南北道路と、幅員一一メートルの東西道路が交差する、通称大国南交差点と呼ばれる交差点であつて、南北道路はアスフアルト舗装がなされ、平たんで、かつ乾燥した路面状況であり、最高制限速度を時速四〇キロメートルと指定された交通量の多い市街地道路であつた。また、本件交差点南北道路の信号周期は青一分二九秒、黄三秒、全赤九秒(右折可)、赤四五秒、全赤四秒となつていた。

2 原告齋藤は、助手席に山根を同乗させて加害車を運転し、南北道路を北へ向けて進行中、本件交差点の停止線から約五〇メートル手前で、本件交差点対面信号が青から黄色に変色したのを確認したが、そのままの速度で直進しようとしたところ、衝突地点から約二七・二メートル手前で被告が足踏二輪自転車に乗つて本件交差点南側東西歩行者用横断歩道を西から東へ横断しようとしているのを認めて危険を感じ、急制動の措置を講じたが及ばず、自車前部を右自転車に衝突させ、約三・一メートル進行して停止した。

3 被告は、足踏二輪自転車に乗りながら北進して本件交差点に至り、続いて、東へ向け本件交差点南側東西歩行者用横断歩道を進行中、南北道路西側歩道縁石から五・九メートル進行した地点で加害車前部と衝突し、衝突地点より北へ約七・一メートルはね飛ばされて路面に俯せの状態で転倒停止した。

4 加害車には、左角から〇・六メートルの前バンパー、ボンネツトに擦過、払拭痕が、被害足踏二輪自転車には、後部泥除け部分(地上高〇・四五メートル)に凹損、曲損が認められ、路面には南北道路西側歩道から二車線目に加害車が印した左側一五メートル、右側二〇メートルの二条のスリツプ痕が停止した位置まで残つていた。

また、被告乗車足踏二輪自転車は、車首を北東に向けて左側に転倒し、被告は左手背部打撲傷、右下腿部打撲傷、右頬部打撲傷の傷害を負つた。

5 右事実をもとに、加害車の速度を考えるに、急制動の措置を講ずるまでの加害車の速度は時速約六四キロメートルと推認され、次に、事故態様を考えるに、加害車左前部が車首を北東に向けた足踏二輪自転車の右後部泥除け部分に衝突し、右自転車に乗車していた被告は倒れるのを防止すべく左手を路面に激突させ、左手を軸に半回転して右側面部を打ち、俯せの状態で停止したことが推認され、更に、加害車が停止線に至つたときには、南北道路は既に黄色から変色しており、従つて、被告は歩行者用対面信号が赤色を呈していた際に南北道路西側歩道附近から歩行者用横断歩道上を進行し、衝突時における本件交差点の信号は全赤の状態であつたものと推認される。

6 原告齋藤は刑事事件において不起訴処分となつた。

(二)  右によれば、原告齋藤は、加害車を運転して本件交差点を北進するに際しては、対面信号の表示に従つて進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、制限速度を時速約二四キロメートル超過する時速約六四キロメートルの速度で本件交差点手前約五〇メートルまで進行した際、南北対面信号が青色から黄色に変色したのであるから、本件交差点に進行すれば対面信号が赤色に変色することも予測しえたのに、全赤の状態でも本件交差点を直進通過することができるものと考え、前記速度のまま進行し左前方から右へ向け南側歩行者用横断歩道を進行してくる被告を本件交差点手前約二〇メートルで発見し、急制動の措置を講じたが及ばず本件事故を発生させたことが認められるのであるから、原告齋藤は、民法七〇九条により、本件事故により被告の被つた損害を賠償する責任がある。

しかしながら、右によれば、被告にも、本件事故の発生について、歩行者用対面信号が赤であつたのに、これを無視し、横断歩道上を足踏二輪自転車に乗つて横断した過失が認められる。

第三損害

1  受傷、治療経過等

被告が本件事故のため左手背部打撲傷、右下腿部打撲傷、右頬部挫傷の傷害を受け、藤森外科において、昭和五七年四月三〇日から同年一一月三〇日まで通院治療を受けたことは、当事者間に争いがない。

また、成立に争いのない甲第四、第七号証、第八号証の一、二、によれば、被告は本件事故による傷害のため、左手部に頑固な神経症状を残す等の症状が固定(昭和五七年一一月三〇日頃固定)したことが認められる。

ところで、被告は、本件事故による受傷はいまだ症状固定するに至つていないと主張し、乙第一、第二、第三、第一四号証を提出する。しかしながら、右証拠によれば、被告は外傷性神経症という病名で昭和五九年二月二一日から同年五月一五日まで八日間大阪市立大学医学部附属病院神経科で受診し、同病院整形外科において昭和五九年一月二八日から昭和六〇年四月三〇日までリハビリ治療を受けたことが認められるものの、右各通院は、被告の症状が既に固定して約一年二か月経過後の通院であつて、かつ、被告の希望により、後遺障害を除去し、機能回復をはかろうとしたものの、結局、その目的を達することができなかつたことも認められ、右によれば、被告の本件事故による症状固定は、前記認定のとおりであつて、大阪市立大学医学部附属病院への通院状況は、後遺障害に悩んだ被告の心因性による症状または後遺障害を改善し機能回復をはかるための通院治療であるから、後遺障害による慰藉料を斟酌するうえでこれを考慮すべき事由とはなるものの、被告の傷害治療に要した傷害に基づく損害事由とすることはできない。原告らの主張する心因性の寄与もこの限度で採用することができる。

次に、被告の後遺障害の内容をみると、前掲甲第四、第七号証、第八号証の一、二によれば、被告の左手示指、中指、環指の各屈曲に障害がみられ、また、左手中指、環指に伸展障害がみられるうえ、左手中指が変形するという後遺障害が認められるものの、いずれもその用を廃したものともいえない程度の機能障害であるため、自賠責調査事務所では、被告にとつて有利な、左手に頑固な神経症状を残すものに該当するものと認定したことが推認されるのであつて、右事実は、被告の将来の逸失利益を算定するうえで、これを考慮すべきである。

2  治療関係費

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証の一、二、成立に争いのない甲第二号証の二、第三号証の二によれば、被告は本件事故による傷害治療のため、藤森外科において、合計二九万〇、五〇〇円の治療費を要したことが認められる。大阪市立大学医学部附属病院等における治療費等は症状固定後のものであつて、かつ、全証拠によるも被告の後遺障害の内容程度を維持するために必要な費用とは認められないから、本件事故と相当因果関係にない。

3  通院交通費

成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一、弁論の全趣旨によれば、被告は大阪市住吉区帝塚山西二丁目四番四号に居住し、同区帝塚山東一丁目三番二二号に所在する藤森外科へは徒歩で通院することが可能であつて、前記認定の傷害の部位、程度(とりわけ重傷であつたのは左手背部打撲傷であつたこと)を考慮すれば、藤森外科への通院にタクシーを必要としたものとはいえないから、これを本件事故と相当因果関係にある交通費とはいえず、その他被告の主張する通院交通費はいずれも症状固定後のものであつて、本件事故と相当因果関係にない。

4  逸失利益

(一)  休業損害

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる第五号証、第六号証の一ないし四、第一七号証、成立に争いのない乙第四号証、第一六号証の一ないし四、第一八号証、被告本人尋問の結果によれば、被告は、事故当時五五歳で、(株)山一商店に取締役として勤務し、一か月平均二二五万円の収入(但し、役員報酬、株式配当を含む。)を得ていたが、本件事故により、昭和五七年四月三〇日から同年一一月三〇日までの間合計五六〇万円の収入を失つたことが認められる。

(二)  将来の逸失利益

前記認定の受傷並びに後遺障害の部位程度によれば、被告は前記後遺障害のため、昭和五七年一二月一日から少くとも四年間はその労働能力を一四%その後七年間はその労働能力を五%それぞれ喪失するものと認められるから被告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、七二〇万二、四九六円となる。

(80万円×12か月)×3,564×0.14+(80万円×12か月)×(8,590-3,564)×0.05=720万2,496円

ところで、被告は(株)山一商店を退職し、年齢等のため転職もできないから、事故前の月収二二五万円をもとに労働能力を一〇〇%として将来の逸失利益を算定すべき旨主張する。

しかしながら、前掲証拠並びに被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第七号証によれば、被告の(株)山一商店における役職は実兄である代表取締役川崎純一に次ぐ取締役の地位にあつて、原皮の貿易並びに国内販売、ゴム及びゴム製品の輪入並びに国内販売、合成樹脂製品の販売等を目的とする同会社の外国為替の先物予約の業務を担当し、二か月に一回は東京、神戸、姫路、大阪の営業所をまわつて得意先の訪問をしたり、営業会議に出席し、時には東南アジアへの出張勤務もしていたこと、同会社は発行済株式総数九、六〇〇株、資本金四、八〇〇万円、年商約五〇億円、従業員数約五〇名の株式会社であるが、いわゆる同族会社であつて、被告の兄川崎純一が発行済株式総数の約四割、被告が同じく約二ないし三割を保有し、特別に株式配当を行なうことなく、各人に報酬として配当金が支払われていたこと、従つて、被告が事故前に得ていた月額二二五万円という報酬には、株式配当金も含まれていたこと、被告は本件交通事故のため、昭和五七年五月中旬までは一日一時間程度、その後同年九月三〇日までは全休に近い勤務状態となり、その後は隔日に一時間程度の出社となつたが、同年一二月以降は一時間程度、昭和五八年九月頃からは三日に一度、一時間程度の就労状況であり、同年一一月頃からは一週間に一度、約三〇分程度の就労となり、遂には、昭和五九年八月三一日取締役を辞任したこと、被告の就労状況が右の如き状態であつたため、同会社は被告の役員報酬を月額二二五万円としていたのを、昭和五七年五月分から昭和五八年一二月分まで右報酬月額を一四五万円、昭和五九年一月分から同年四月分まで右報酬月額を六〇万円にそれぞれ減額したことが認められ、右事実によれば、同会社から被告に支払われていた報酬のうちには、取締役としての地位に対する報酬、労働に対する対価としての給料、株式配当金が混在し、更に利益金処分としての賞与も含まれているという典型的な同族会社の報酬体系であつたため、これらを厳密に区分して認定しえないものの、前記認定の被告の同会社への出勤状況と減額状況とを対比すれば、被告の報酬のうち、労働に対する対価としては、被告が休業し、その間支払われなかつた月額八〇万円であつたものというべきであつて、その余の月額一四五万円は株式配当金ないし利益金処分、取締役としての地位に対する報酬であつたものと推認されるのであるから、被告の将来の逸失利益算定の基礎収入を月額八〇万円とすべきものと認定され、また、前記認定の被告の傷害の部位、程度、症状固定時における被告の後遺障害の内容、程度、症状固定後の症状、通院状況、同会社における被告の職務内容、退職、年齢等の諸事情を考慮すると、被告の左手中指環指の機能障害は被告の就労可能年数まで残存し、同部位における神経症状は症状固定後四年間は残存するものと認められるのに対し、右以外の心因性に基づく症状は本件事故と相当因果関係にないものと認められるから、被告の将来の逸失利益を前記のとおり認定した。

5  慰藉料

本件事故の態様、被告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、年齢その他諸般の事情を考えあわせると、被告の慰藉料額は二三〇万円とするのが相当であると認められる。

第四過失相殺

前記第二認定の事実によれば、本件事故の発生については被告にも信号無視の過失が認められるところ、前記認定の原告齋藤の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として被告の損害のうち三割を減ずるのが相当と認められる。

そうすると、被告が原告らに請求しうる金員は、被告の本件事故による損害総額一、五三九万二、九九六円の七割に相当する一、〇七七万五、〇九七円(円未満切捨て。)となる。

第五損害の填補

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証の一、二によれば、原告らは藤森外科に対し被告の治療費として二九万〇、五〇〇円を支払つたことが認められる。

よつて被告の前記損害額から右填補分二九万〇、五〇〇円を差引くと、残損害額は一、〇四八万四、五九七円となる。

第六弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、被告が原告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一〇〇万円とするのが相当であると認められる。

第七結論

よつて原告らは各自、被告に対し、金一、一四八万四、五九七円、およびこれに対する反訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和六〇年一月二六日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告らの本訴請求及び被告の反訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井良和)

別紙交通事故

1 日時 昭和五七年四月三〇日午後二時頃

2 場所 大阪市浪速区大国一―五―一五先交差点

3 加害車 普通貨物自動車(大阪四五ら八六二七号)

右運転者 本訴原告(反訴被告)斎藤紀祐

4 被害車 足踏二輪自転車に乗車して西から東へ横断中の本訴被告(反訴原告)川崎七郎

5 態様 本件交差点南側歩行者用横断歩道を足踏二輪自転車に乗つて西から東へ横断中の本訴被告(反訴原告)川崎七郎に、本件交差点南北道路を北へ進行中の加害車が衝突

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